2024/08/31
高収入のイメージが強いお医者さんですが、同じ医師の中でも、年を追って平均年収の下がっている分野があります。
それは歯医者さんです。
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勤務歯科医師の平均年収の推移
グラフは、厚生労働省調査の歯科医師(勤務者)の平均年収です。
2013年の調査分で、残業代を入れても年収621万円という結果が出ています。実に、同じ年の勤務医師の年収1072万円に対して、60%弱の水準ということになります。
開業医に関しても、収益の悪化傾向は顕著です。バブルの頃には、高級外車を乗り回していたイメージのある職業ですが、今は昔。環境が様変わりしているのです。
一方、他の分野の医師と比べて、決して簡単になれるということはありません。大学は6年通わなければならないし、学費も同じくらいかかります。私立大学歯学部の場合、6年間で3000万円以上の学費がかかるケースも珍しくありません。しかも、歯科医は一定の勤務期間の後、開業する割合が圧倒的に高いため、相応の資金リスクも背負わなければなりません。高額な設備機器が必要なため、テナントでの開業でも、5000万円程度の初期資金が必要になるのです。
「需要と供給」で給料は決まる
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歯科医師数の推移
では、なぜ歯科医は儲からない職業になったのでしょうか?
理由は明快です。数が増えすぎたのです。
表は、歯科医師数の推移を示したものです。
1970年と比べて約3倍、1980年と比べても約2倍になっていることが分かります。1970年というと大昔のようですが、定年制のない免許ですので、現在でも現役可能な70歳の高齢医師が免許を取得した頃です。
この40年で日本の人口は1.2倍程度にしか増えていませんので、明らかに供給過剰ということになります。今では、歯科医院はコンビニの数よりも多いと言われるほど増えてしまいました。人口10万人当たりの医師数で見ると歴然、36.5人から80.4人と2倍以上になっています。
それでも、1995年前後までは、患者1人当たりの治療費アップにより、市場全体は拡大していました。しかし、それ以降は治療単価も横ばいとなり、歯科医師数の増加を吸収できなくなったのです。
事実、収入の確保が困難なために、廃業する歯医者さんは、後を絶たちません。
もちろん、技術が高く、マーケティングセンスに溢れる歯医者さんは地域で評判となり、患者が集中しますので、セレブのイメージ通りの先生も少なからず実在します。一方で、そのような医院が流行れば流行るほど、平均以下の歯科医はサラリーマン以下の生活を余儀なくされるという、悪循環に陥っているのです。
医療は女性が活躍できる分野
唯一の明るい傾向としては、男社会だった歯科医の世界も、女性の割合が年々高まってきていることでしょうか。特に29歳以下の若手医師に限っては、2012年で42.1%と、半数に迫ろうとしています。薬剤師なども女性が7割近くを占める職業ですが、一般企業に比べて医療分野の方が、女性の活躍できる環境は整っているといえそうです。
さて、歯科医師を例に、需給バランスと年収の関係を見てきましたが、同様の事象は、弁護士や公認会計士といったエリート職業においても見られます。国の政策もあって、合格者数を増やし過ぎた結果、職に就けない有資格者も出現するようになりました。
職業選択の際には、現在だけでなく将来に亘っての「需要と供給」のバランスが、極めて重要な要素といえるでしょう。