ブラキシズムが歯を壊す

地方開業医の著書「ブラキシズムが歯を壊す」:保険診療限界の指摘も

 

 近年の傾向であるが、大学関係者・研究所等の歯科医師が、社会に自身の思いを理解してほしい、知らせたいことから書籍を上梓するケースが目立つようになった。評価は読者に一任するが、以前は“大学教授”以外の著出版は珍しく異例であった。かつて歯科業界マスコミ編集者は「学術面では、開業医には、データがなく、思いだけが強ことから出版は難しいと認めざるを得ない」「執筆依頼でも大学教授の紹介が前提」などと暗黙の了解があった。大学関係者の存在であった。また、営業的にスタディグループ主宰の大御所の書籍出版が注目されていた。

ブラキシズムで歯が破折

                          噛み合わせにあったマウスピースの作成し。夜間使用もひとつの予防

執筆依頼したくても営業・大学関係などから、大胆な判断が必要であり、企画・編集サイドの悩みでもあり、そうした時代があった。近年は市民に“歯科の問題”“歯科への疑問への回答”などを謙虚に臨床を積み重ねてきた。歯科臨床からヘの対応するために、開業医の説明が理解しやすいケースがあり、開業医による出版が散見されてきた。紹介する本書「ブラキシズムが歯を壊す」(2023年発行=現在書林)もその一冊。著者の池上正資氏は全く無名の地方・長野県駒ケ根市で、「とうせい歯科医院」をしているベテラン歯科医師(1958年生まれ)だが、訴えたいことが“ブラキシズムを理解して自分を守ってほしい”ということで、思いが伝わる。さらには保険制度の矛盾・限界にも敢えて言及していることに興味を抱かせている。「“ブラキシズム”って何」「ブラキシズムと虫歯」「ブラキシズムと歯周病」「噛みかみ合わせとブラキシズム」「治せなくても軽くすることはできる」などのテーマについて、“”開業医””の立場から論じている。

 

一方で、臨床の上で、敬意・尊敬する元東歯大客員教授であった故寿谷 一(すや はじめ氏を紹介し、そのスタディグループの門下生・後継者である西川洋二氏(相模原市開業)が、咬合学の研修塾を継続している。「高度な咬合調整に技術で顎間節症やブラキシズムを治療され成果を上げているという。噛み合わせ治療後に、佐藤貞勝・元神歯大教授のグループが開発した簡易歯ぎしり検査装置で把握するという。こうした主張の根本的には、“咬合学に基づいた治療が基本”と指摘。顎関節症分野の第一人者であり、ブラキシズムに対しての専門家でもある木野孔司・東医歯大治療部長(2000)が、世界に先駆けて歯牙摂蝕癖(TCH)を提唱した言葉・概念だが、ブラキシズムと関係が疑われているとされている。これも無視できないとされているようだ。時代の変化により、「行動変容」「新しいブラキシズム治療法」「オーラルリハビリテーション」なども報告している。

 

本書では、個々の診療を平易に詳説明しているが、患者からすれば最も大事な診療費の問題は無視できない。著者は、敢えて保険診療についても言及して、深く検討すれば、行政の政策になりうる問題であるが、素朴に捉え、臨床での課題とリンクしていることにも指摘して、そのポイントを紹介している。「国民皆歯科健診」「保険診療の限界(回数制限・期間制限等)を知る」「保険診療を上手に利用する」など開業医ならではの意見も記している。個々の症例を通して、歯科界を以前から覆っている課題の理解を求めているかもしれない。にコラム「困惑したクレーマー」「理不尽な保険歯科診療」を本音で書かれている。

 

最後は、以下のように結んだ。「歯科関係者は、患者の歯・健康を守るため努力しているのですが、患者自身の理解・協力も必要です。まさに患者と歯科医師・歯科衛生士・歯科技工士などのコアデンタルと二人三脚でするのが理想です。結論は“早期発見”“早期治療”になります」。“ブラキシズム”を専門的に臨床応用にしている著者であるが、患者の視点と歯料診療を巡る意識を、地方開業している“一人の歯科医師の実感”を表した内容といえそうだ。